★あしたのジョー

高森朝雄(梶原一騎)原作、ちばてつや画のボクシング漫画である。
この映画はジョーがドヤ街に現れるところからプロのリングで力石徹と戦い、
その後行方不明になり戻ってくるところまでを映像化している。

原作においてはそこへ至るまでに数多くのエピソードがある。
原作でのメインのケンカエピソードは下記の通りである。

1.子供達とのケンカ
2.白木財閥の白木葉子を詐欺で騙す。
3.丹下段平とやりあい警察へ
4.鑑別所で西とケンカ
5.少年院で力石徹とケンカ(豚を先導して逃げようとして)
6.少年院で力石徹とリングで試合
7.少年院で青山とリングで試合
8.出所後、プロテストで国体優勝のテクニシャン稲垣正平と試合
9.丹下段平のライセンス復活のためウルフ金串とケンカ
10.デビュー戦で村瀬武夫と試合
11.子供達がウルフの練習を覗き見する
12.ウルフ金串と試合
13.力石徹と試合
14.行方不明になりゴロマキ権藤とケンカ

はっきりと映像化しているのは、bU、bP0、bP2、bP3。
ただあの有名な豚を先導して逃げる場面はなく、
ウルフ金串との試合へ至る経緯はかなり省略されている。
bP〜bTまでは大胆に割愛し別エピソードにしたりで、
かなり急ぎ足で総括している。
西との関わりもかなり変更されている。
bV〜bX、bP1、bP4は完全カット。

この映画は何を削り何を残しどのエピソードに一番時間を割くかの選別作業が大変だったと思う。
更に削った後の残った話をどのようにつなげるかも難しかったと思う。
(メインは力石徹との試合と関わりだからそれ中心にまわるのは当たり前だが)

メインのエピソードでも削らなければならなかったのだ。
例えば出所後にアルバイトする乾物屋も、その娘の紀ちゃんもなく、
減量に耐え切れず隠れて屋台のうどんを食べる西の姿もなかった。

ワタクシは原作をかなり熟読しているので、
もしかしたら正当な評価が出来ないかもしれない。
上記のbP〜bP4は何も見ないで書いているし、
それ以降も全て何も見ないでかけるぐらい熟読しているのだ。

だから原作と違うところにはピクっと反応してしまうのだ。

また試合においては全体的に説明的なセリフや心の中のセリフなどが省かれている。
例えば、
ジョーにクロスカウンターを伝授する時の丹下段平のセリフ
「お前の肉と骨のきしみで覚えるんだ」がないこと、
またどうしてクロスカウンターを打つために
力石徹に打たれ続けなければならないと丹下段平はいうのか、

ウルフ金串戦での「何故なんどもダブルクロスを打たれにいくのか」の説明もないし、
最後の力石戦で2人ともノーガードになって
ジョーが我慢しきれずストレートを打ちにいった心の動きもない。

他にも「あれっ何も言わない」ってあったけど、今はもう覚えていない。

などである。勿論ワタクシ答えは知っています。
でも知らない人はパッと見わからないのでは?と思う。

もう1つ追加で、あの丹下段平の名セリフ「たてーたてーたつんだジョー」が1回しかなかった。
「たてーたてー」はあったと思うけど。その1回は力石徹とのプロのリングの試合で1回だった。
原作はちとわからないけど・・・まぁあまり関係ないかなと思いつつ、気になりましたね。

さてこれだけの大手術をして映像化して、
鑑賞後は「金返せ」といいたい気持ちにならざる終えない映画は数多くあった。

しかしワタクシこの映画気に入ってます。
勿論エピソード的には入れて欲しかった場面はある。
特に丹下段平のライセンス復活のために、
ウルフ金串を挑発しクロスカウンターの一発相打ちをする場面は入れて欲しかったと思う。
(映画ではウルフ金串は力石徹と同じ白木ジム所属になっている。原作では大高会長のジムに所属)

しかしながらこれを入れるとウルフ金串までの映画化になってしまいそうだから・・・
恐らく苦渋の決断で削ったのだろうと思う。

特に良かったのは力石徹役の伊勢谷友介。
なんといってもあの表情とボクシングとしての動きがボクサーであり、
力石徹の雰囲気にはまっていた。
雰囲気を映像的にのみ演出としてはめこんだのではなく、ボクサーとしてはめてくれた所を評価したい。

全体的にもそうだったのだけど、ボクシングとしてかなり本気モードなのを感じられた。
元々本気モードでという振れ込みだったけど、相違ないと。

それから丹下段平。
実は一番危惧していた。
香川照之はどう演じるのか。

しかし老婆心でしたね。
やはり動きがボクサーだったし、あのメークで自然な感じがしたのは何故だろうと。
もしかしたら今までの他の作品の香川照之の演技は、
本気を出していなかったのではないかと思うぐらいだった。

それで彼の本「慢性拳闘症」も買いました。
いやー知らなかった。ボクシングオタクだったなんて。
しかも本人がいうように重度の重症。いや重症ではなく重体的である。

さて最後はジョー役の山P。
香川照之の本にも書いてあったが「殻を破る。爆発する」というところに至るのでに苦労したと。
そういう意味ではボクシングとしては伊勢谷友介よりもやや劣っていたかもしれない。
ただそれは非難されるべきレベルの問題ではない。
力石徹の死後以降のピリピリしたジョーではなく、
はしゃぐジョーのイメージにピタリとはまっていた。

何よりノーガード戦法の姿が違和感なかったのはさすがだ。
マンガでは「だらり」とさげただけなのだか、
映画ではピクピクと牽制の動作がありそれはそれでよかった思う。
・・・やや辰吉丈一郎入ってる感じだが・・・
でも「慢性拳闘症」を読んで謎は解けました。

しかしこの映画のファーストシーンは特筆ものだ。
こんなにいいファーストシーンはあまりない。
まず昭和の路面電車のある風景が写され、溶鉱炉の絵が写され、
夕日の中工事現場のクレーンの絵が生き物のように写され、
そしてタイトルがあらわれ、テロップが流れ
そしていつのまにかジョーのケンカが始まる。
この映画は上記で書いたように
「bP〜bTまでは大胆に割愛し別エピソードにしたりかなり急ぎ足で総括している」
のだが、その総括がものすごくいいのだ。
このファーストシーンのケンカは山Pが生き生きしていて一番よかった。

凡百の監督なら羅列に過ぎない感じになる筈だが、
このファーストシーンでグイグイと映画の中に引っ張って行く。

原作の印象的シーンをチラッと見せてくれていたのも見逃せない。
時々ちらっと見え隠れしていた、みつあみお下げの紀ちゃん風の女の子。
誰だろうパンフレットにも記載されてなかった。

マンモス西の鼻からうどんも、食事中の少年院での乱闘でチラッと演出されていた。

それから特に喋るわけでもなく、チラッとしかでないのに、
なんだかエキストラ風に出演していたドヤ街の倍賞美津子。
でもドヤ街の風景として抜群の存在感はあった。

この映画が成功しているのは、先ずファーストシーンから、上記のbP〜bTまでを
大胆に割愛し別エピソードにしたりしてかなり急ぎ足でまとめているのに、
印象が雑にならなかったところと原作の質感を損なわなかったことだと思う。
これは並大抵の監督には出来ない。(ただ絵を並べただけの作品がなんと多いことか)

それからなんといってもボクシングとして見るに耐えうるところだと思う。
しかもところどころ漫画的な絵も見せる。
あの少年院での矢吹ジョーと力石徹のクロスカウンターの相打ちの絵は、
姿といい角度といいマンガと同じだった。もう少し長く見ていたかった。
(原作ではかなりの時間そのままの状態で倒れなかった)

それからキャストにミスがなかったこと(ヤクザの親分の杉本哲太はゴロマキ権藤風でよかったし)、
香川照之がボクシングオタク(マニア)と豪語するら、
ワタクシは明日のジョーオタク(マニア)なのだ。

(余談ですがワタクシ2回見に行きました。2回とも同じ映画館で同じ席J−23でした)

アシカラズ


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